東京都内の中小河川や用水路、それらの暗渠、ひっそりと残る湧水や池をつれづれと辿り、東京の原風景の痕跡に想いをよせる。1997年開設の「東京の水」、2005年開設の「東京の水2005Revisited」に続く3度目の正直?


by tokyoriver

1989年初秋。本郷菊坂の汲み上げ式井戸。

「文京区本郷・菊坂の暗渠と井戸(東大下水)」の記事の後半でとりあげた、ポンプ式井戸。
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「20年前、初めてこの場所を訪れた時、この井戸はポンプさえなく、木の蓋がしてあるだけだった。そして井戸端には先端に木桶がぶらさがった2.5m ほどの竿が立てかけてあって、これを井戸の底に入れて水を汲んでいたのだ。」
と記したが、残念ながらその当時の写真がなく、現在の様子を示すにとどまった。

実は当時この場所を訪れたのは、高校の文化祭で上映するための8mm映画を撮影するためのロケハンがきっかけだったのだが、今回ようやく、その当時の風景が映る8mmフィルムをDVDにコンバートすることが出来たので、画像のキャプチャで紹介しよう。撮影は21年前、1989年の初秋。昭和から平成に変った年である。
(※動画で載せられればいちばんよいのだが、出演者に許可を得たわけではないので、顔がはっきりとは判らない画像を選んで静止画で掲載した。)


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まずは遠景。奥の路地から近所のお年寄りが歩いてくるのが見える。
井戸の向かいの家の扉が、現在と違い木造となっている。
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そして近景。井戸には木の蓋がされ、木の竿につけられた木の桶がその上に置かれている。
背後の柱に立てかけられているときもあったように記憶している。
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蓋を開ける。水位は地面よりは低かったと思う。
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中を覗き込む。澄み切った水をたっぷり湛えていた。
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水をくみ出す。
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くみ出した水を流してみる。水は冷たかった。
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映画ではこの後、細野晴臣の「恋は桃色」をBGMに、井戸のある路地と並行する路地を通り、鐙坂を上って、樋口一葉旧居跡前の木造家屋の間の階段を下り、一葉の井戸へと至るシーンとなる。

♪ここは前に来た道 川沿いの道
  雲の切れ目からのぞいた 見覚えのある町・・・

その中で、前の記事でも紹介した平屋の並ぶ路地の写真を最後に紹介しよう。ちょうど平屋に住むお婆さんが洗濯物を干している様子が写っている。今よりも平屋の家々が多く、植木鉢も多い。路地全体が今よりも生活感にあふれている感じがする。
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あらためて20年ぶりに映画を見てみると、脚本の、特にせりふの稚拙さには赤面モノで、聴けたもんではないが、ロケ先が多岐にわたっているのはわれながら感心する。本郷菊坂のほかに、根津界隈や国立の谷保天満宮の湧水、ママ下湧水界隈、つつじが丘の入間川流域、荒川区の荒川土手、渋谷、原宿、代々木、西麻布・麻布十番・広尾界隈、山梨県の韮崎、東北本線内、上野駅、駒込、春日、駒場・・・
われながらよくこれだけあちこちに行ったものだと思う。時はバブルのピーク。都内の景観が大きく変っていく中で捜し求めた、昭和と平成の狭間に残された風景達も多く含まれているが、今では菊坂の井戸のほかにも、更に風景が変わってしまった場所もあるだろう。そもそもすでに、8mmフィルムというメディア自体がとうに終焉を迎えているし。


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余談だが、16歳の古地図好き少女、というなかなか面白い設定の主人公の漫画を本屋で見かけ、買ってみたところ、そこの1話で本郷菊坂が舞台となっていた。暗渠好き、散歩好きならきっと面白い作品だと思うので、書評記事にリンクしておく。

「ちづかマップ」著:衿沢世衣子
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Commented by lotus62 at 2010-02-12 09:28 x
いいですねー。BGMからだけですがw、なんか甘酸っぱい内容を想像してしまいます。この曲は私も大好きです。
HONDAさんほんとに以前から東京の水とともに人生を歩んでらっしゃるんですね。
Commented by nama at 2010-02-12 12:33 x
なんだか、すてきな記事ですね。
”川ぞいのみ~ち~♪”・・・わたしも、この曲の、ここ好きです。
中村一義(←かわいいから好き)が、これをカバーするときに、「自分も川沿いを歩くのが好き」と言っていたので、さらに(どっちも)好きになっちゃいました。

そして最後の漫画の紹介、これすごいですね!漫画は結構慣れ親しんでるつもりなのに、全然知りませんでした。手に入れたいと思います。
Commented by 庵魚堂 at 2010-02-12 17:20 x
すばらしすぎます。
とても高画質で、画だけ見たら8ミリとは思えないほどですね。
素晴らしい記録と記憶をお持ちのことを、羨ましく思います。

それにしても「1989」という数字にびっくりです。
ちょうどきのう、よく行く場所にかつて建っていた建物のことを考えていたところでした。
超がつくほど大型の木造アパートで、中央には塔らしきものまで建っていました。
「これ、写真に撮っておこうかなあ、でも案外しぶとく残ってたりするからなあ」などと迷っているうち、あっさり取り壊されてしまいました。
それが1989年のことでしたので、ちょっとしたシンクロニシティを感じました。跡地はいまだに駐車場です。

1989にまつわるシンクロニシティはこれだけではないのですが、それはまたそのうちに。
80年代というのは、60,70年代までの残り香が徐々に(かつ致命的に)消えて行った期間ではなかったか、などと最近よく考えています。
Commented by tokyoriver at 2010-02-13 01:04
lotus62さん。
恋は桃色、菊坂界隈の路地裏の風景にとても似合います。訪れることがあれば、ぜひ聴きながら歩いてみて下さい。
Commented by tokyoriver at 2010-02-13 01:06
namaさん。
中村一義やサニーデイサービス、矢野顕子など、けっこうカバーされてますよね。ちづかマップは傑作!という感じまでではないんだけど、これ1冊だけなのが勿体ない空気感を持っていました。
Commented by tokyoriver at 2010-02-13 01:13
庵魚堂さん。
東京オリンピックも大阪万博も70年安保も終わった後に生まれた
自分の世代にとっては、1989年という年が初めて訪れた大きな
変革の年でした。そんな年に訪れた場所ですので、よく覚えている
のかもしれません。
シンクロニシティの話、またそのうちお聞かせ下さいね。
それにしても取壊した場所が未だに駐車場だなんて、切ないですねえ。
by tokyoriver | 2010-02-10 21:40 | 神田川とその支流 | Comments(6)