このたび編著「東京「暗渠」散歩」の改訂版が刊行されることとなりましたのでお知らせします。
「東京「暗渠」散歩」は、2012年12月に、私の編著名義で洋泉社より刊行された単行本です。2010年に洋泉社より出版されたムック「東京ぶらり暗渠探検」をベースに、個々の記事の写真や文章を削って、その分対象エリアを広げ、東京山手エリアの主要な暗渠を網羅する本として刊行されました。
執筆者は世田谷の川探検隊福田伸之さん、軍艦島伝道師としての活動でも知られる黒沢永紀さん、街角図鑑の三土たつおさん、この本がデビューだった暗渠マニアックスの高山英男さん、吉村生さん、ムックの編集者だった樽永さん、そして私の7名。
刊行後は幸い暗渠散歩の定番本としてそれなりにご好評いただき、都内の各図書館などにも所蔵されています。2016年には増刷もかかりましたが、その後品切れになったまま版元の洋泉社の宝島社への吸収合併に伴い、店頭から消えていました。
再販希望のお声も多くいただく中、今回、実業之日本社より復刊のお話しをいただき、再刊行することとなりました。せっかくの版元を改めての復刊ということで、今回は構成こそ継承しているものの、内容については全面的に見直しを行い「改訂版」として刊行させていただきます。
改訂版のポイント
(1)地図は全部再作成
他の執筆者担当のエリアも含め、私の方で文中の全ての地図を再作成しました。前回の地図には掲載していない細かい分流・支流も今回はほぼ載せています。(下の写真左が洋泉社版の地図、右が今回の地図)。旧版では技術上の問題により流路の描写がややずれている部分も少なくありませんでしたが、今回はデータをそのまま地図に掲載していますので、ページにより縮尺の大小はありますが、正確なものとなっています。付録の大判地図とあわせてご参照ください。
(2)写真も大部分が再撮影
洋泉社版の刊行から8年近くが経ち、暗渠の様子が変化しているところも少なくありません。改訂版刊行にあたっては、それらに応じて写真を差し替えるべきか、あえて当時の記録として残すべきか判断が分かれるところとは思いますが、今回は各執筆者の判断にお任せすることとし、結果的には大部分の写真が入れ替わりました。
私の担当部分では、9割が再撮影した写真となっています。(一部は記録的な意味合いで当時の写真をそのまま掲載しています)。また、同じ場所・同じアングルで新旧比較ができるようにした箇所も多いので、オリジナル版がお手元にある方は10年の変化を比較してみてください。
(3)本文もアップデート
写真と同じく文章についても、時間の経過により現況とそぐわない記述もでてきています。こちらについては各執筆者にチェックいただき、現地の直近の状況に応じて、記述をアップデートしています。
私の担当部分については、状況に応じたアップデートに加え、改めて読み返してみると文章の構成や表現に冗長な部分やわかりにくい部分が散見されましたので、より読みやすくなるよう書き直した部分も多いです。また、序章の後半「暗渠探索のポイント」については全面的に書き直しました。
(4)巨大暗渠地図を付録に
今回は、洋泉社版をお持ちの方もお楽しみいただけるよう、付録に縦60cm、横90cmの大判の暗渠マップをおつけしました。国土地理院地図に標高段彩を加えた上で、自然河川や上水・用水・堀割の暗渠・開渠をプロットしています。本文に取り扱った範囲の大部分をカバーした都心部拡大地図(縮尺はおよそ2.5万分の1相当)と、西は国立付近から東は江戸川区中部までを含む広域地図(およそ5万分の1相当)の両面となっています。
2007年よりgoogle mymap上に様々な資料や現地調査に基づく都内の4000本以上の水路を記録して来たのですが、そのうち範囲となっている部分以外はそのまま記しています。先日刊行された昭文社の「東京23区凸凹地図」ではある程度間引いていましたが、こちらは間引いておりません。
個々の暗渠の地図だけではわかりにくい、水系や水路網の全体像を俯瞰できるかと思います。広域地図は細かいので虫眼鏡を用意してご覧いただくのもよいかもしれません。
こちらは都心部拡大地図の範囲。
こちらは広域地図の範囲です。
(5)サブタイトルの変更
洋泉社版は「東京「暗渠」散歩」」という書籍名の前に「地形を楽しむ」という副題がついていました。これは同年に同じ洋泉社から刊行された皆川典久さんの「東京スリバチ 地形散歩」が好評だったことで、同様に地形本として打ち出したいという出版社側の要望によるものでした。ただ、実際には地形のみに焦点をあてた内容ではなかったため、当時から執筆者のなかでも違和感を持たれる声がありました。このような背景を踏まえ、今回は「失われた川を歩く」という副題に変更しています。
最後に目次を記しておきます。私が執筆を担当したのは序章、Ⅰ章のすべて、Ⅱ章の弦巻川、水窪川、蟹川、東大下水、松庵川、Ⅴ章の概要、貫井川、Ⅵ章の概要及び地図作成となります。
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序 東京の暗渠
かつての川がたどってきた歴史とそこを探索する意味/暗渠探索のポイント
Ⅰ 渋谷川支流の暗渠
概要/渋谷川(上流域)/玉川上水原宿村分水/河骨川/
宇田川初台支流(初台川)/宇田川/いもり川/笄川
Special Report 1 白金分水・玉名川・白金三光町支流を歩く
Ⅱ 神田川支流の暗渠
概要/桃園川/井草川/江古田川(上流域)/弦巻川/水窪川/蟹川/紅葉川/谷端川・小石川
Special Report 2 歴史が凝縮された東大下水をたどる
Special Report 3 神田川笹塚支流(和泉川) 時代の重なりを味わう
Special Report 4 存在わずか数十年 善福寺川支流・松庵川
III 目黒川支流の暗渠
概要/北沢川/空川/蛇崩川/谷戸前川/羅漢寺川
Special Report 5 源流をたずねて烏山川をさかのぼる
Ⅳ 呑川支流の暗渠
概要/呑川(上流域)/九品仏川/駒沢支流・洗足流れ
Ⅴ 石神井川支流の暗渠
概要/貫井川/エンガ堀/田柄川/谷田川・藍染川
Ⅵ 上水・用水の暗渠
概要/玉川上水(暗渠区間)/千川上水/品川用水/三田用水
Special Report 6 玉川上水余水吐 遺跡の宝庫をめぐる
Extra Report 外堀通り下の暗渠 水道橋分水路を行く